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つばきの花の下

2008/04/23 Wed
 ユタがまだ保育園に通っていた頃、その小さな手に、黒くて小さな石ころのような物をぎゅっと握って大事に持ち帰ってきたことがある。
 大人が無価値な物としてゴミのように扱う物に、子どもが宝石にも等しい価値を見いだすなんてことはよくある話だ。この時ユタが持ち帰った黒い小石も、子どもにとってだけ特別な価値を持つガラクタの一つなんだろうと僕は思っていた。
 しかしユタは、その黒い小石をほんとうに大事そうにしている。「それは一体何?」と聞いてみると、ユタは当時はまだ貧弱だった語彙を総動員して「つばきの種、せんせいにもらった、お庭にまくの」というような事を言った。
 よく見てみるとそれは確かに植物の種のようにも見えた。しかし黒くてカチカチに堅いその物体から植物の芽が出てくるとは、僕にはとても思えなかった。だがせっかくユタが持ち帰った物なのだから、とりあえず庭に蒔いてみようという事になった。

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 翌日の夕方、母親のカオに連れられて庭に出たユタは、ろくに場所を選びもせずに、手にした種をポイッと投げた。カオは、半ば投げ捨てられたように庭にころがるその種(のような物)の上に土をのせ、「きれいなお花、咲くといいねえ」などと言いながら、ジョウロで水を与えた。
 数日後、ユタが種を蒔いた場所に、小さくてかわいい芽が顔を出していた。「あれってほんとうに植物の種だったんだ!」あの小石にしか見えなかった物が、本物の植物の種だったという事に僕はとても驚いていた。そんな僕の驚きの声を聞いて、カオとユタは、「あったりまえじゃん!」と得意そうに笑った。ちょっと悔しかったが、せっかくユタが持ち帰った種が無事に芽を出してくれた、その嬉しさの方が大きかった。

 月日は流れ、椿の芽は枯れる事もなくグングンと大きくなった。しかしその椿は、なぜか何年経っても花を咲かせる事がないのだった。やがてユタが保育園を卒業し小学生になる春が来た。しかしやっぱり椿は花をつけない。その頃になると、この椿はきっとこれからも花を付けることはないのだろうと思うようになった。少し残念だったが、芽を出すとはとても思えなかった小石の様な種が、ユタの期待に応えて無事に芽吹いてくれて、今もすくすくと成長を続けている、その事だけで充分であるような気もした。「花を付けない花の木」などという中途半端な存在ではあったが、僕ら家族にとって、その椿の木がとても大切な存在であるということに変わりはなかった。

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 さらに何年かが過ぎた一昨年の春、我が家にピースがやって来た。そして昨年の夏、僕らは走るのが大好きなピースの為に庭に塀を張り巡らせ、小規模なドッグランとして使えるように手を入れた。その時に、毒性のある球根性の花などは、拾い食いが大好きなピースの安全の為に取り去ることにした。しかしカイドウとハナミズキと椿の木は、撤去せずにそのまま残しておいた。その3本の木はピースが全力で走る時には少し邪魔な存在だったが、その代わりピースが用を足す時にはかっこうのマーキングポイントになってくれるのだった。
 ピースはほぼ毎日庭に出て、自分だけの小さなテリトリーを走り回る。そして気が向くと3本の木の中からどれか一つを選び、その幹にマーキングをする。犬のオシッコを頻繁にひっかけられるというのが、植物にとって良い事なのか悪い事なのかは知らない。だが少なくともうちの庭の木たちは、枯れる事もなく日々成長し続けた。

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 一週間ほど前、椿の木の異変に最初に気づいたのはカオだった。今まで一つの花も付けることのなかった椿の枝に、一つの赤いつぼみが付いているのを見つけたのだ。その事をカオに聞いた時にはちょっと感動してしまった。ユタが放り投げるようにしてその椿の種を植えた時からじつに8年(もっとか?)もの時が過ぎていたものだから、今さら花が咲くなんて思ってもいなかったのだ。
 朝日を受けて輝くつばきの花はとてもかわいい。その可憐さは、小さな種をぎゅっと握りしめて持ち帰った、あの日のユタの純真さを象徴しているように思える。ほんとうによく咲いてくれたなあ、お前。

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 今頃になって椿の木が花をつけた原因について考えると、どうしても「ピースが毎日オシッコをかけ続けたのが良かった」という子どもじみた考えに捕らわれてしまう。もしそうだったら面白いなあという妄想レベルの話だが、8年間一度も花を付けなかった椿が、ピースにオシッコをかけられるようになって半年後に初めて花を付けたというのが、ロマンチストバカの僕には、とても偶然の出来事とは思えないのだ。ま、モノがオシッコだけに、ロマンもクソもないのではあるが。
 いや、もしかしたら僕の仮説(笑)は真実なのかもしれない。昨年の夏以来、ピースはある確信を持って椿の木にオシッコをかけ続けたのだ。そうする事がこの椿の木にとって良い事なのだとピースには分かっていたのだ。だったらいいな、面白いよな。

 ところで花を食べるのが大好きなピースだが、その椿の花はピースの視界の遙か上に咲いている。それが幸いしてか、ピースはまだその花の存在には気づいていない。そして今日も一輪の椿の花の下で、せっせとマーキングに励むピースなのだった。

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テーマ : 犬と子供のいる生活 - ジャンル : ペット
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